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名古屋高等裁判所 昭和59年(ネ)495号 判決 1984年11月28日

控訴人(申請人) 秋月勲

右訴訟代理人弁護士 谷口彰一

同 松葉謙三

同 中谷雄二

被控訴人(被申請人) 株式会社 立花商会

右代表者代表取締役 佐竹孝雄

右訴訟代理人弁護士 吉村洋

同 今中利昭

同 村林隆一

同 千田適

同 松本司

同 谷口達吉

同 釜田佳孝

同 浦田和栄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。控訴人と被控訴人間の津地方裁判所四日市支部昭和五八年(ヨ)第一三七号競売手続停止仮処分事件について、同裁判所が同五九年一月九日になした仮処分決定を認可する。訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および立証は次に付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目裏六行目「根抵当権」とあるのを「抵当権」と訂正し、三枚目裏八行目「認める」のあとに「(但し、疏乙第四号証、第八ないし第一〇号証は原本の存在も認める。)」と付加する。)。

(控訴人の主張)

被控訴人が申請外四日市管工株式会社(以下訴外会社という。)に対する債権を放棄したことによって被担保債権は消滅し、従って本件抵当権も消滅したと考えるのが抵当権の附従性の原則にも合するものである。私的整理だからと言って別異に解する理由はない。また債権の相対的免除、放棄はいたずらに求償の循環を生ぜしめるだけであって無効である。

理由

当裁判所も控訴人の本件仮処分申請は却下すべきものと認めるものであって、その理由は次に付加するほか、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する(但し、原判決四枚目表四行目「九月七日」とあるのを「五月一一日」と訂正する。)。

破産法における強制和議、和議法上の和議或いは会社更生法上の更生計画の各認可決定が確定した場合、破産債権、和議債権或いは更生債権は和議条件或いは更生計画に従って変更を受ける。従って、たとえば右和議条件または更生計画によって前記債権の一部が免除された場合、前記破産債権等はその範囲で消滅することになるが、右は債権そのものが消滅するというのではなく、前記破産者、和議申立人或いは更生会社の責任を追及しないという所謂自然債務になると解される。よって右破産者らの保証人や破産債権者らのために第三者が供した担保は前記強制和議等によって影響を受けないのである(破産法三二六条二項、和議法五七条、会社更生法二四〇条二項)。

いわゆる任意整理は、前記破産法、会社更生法等法律上の清算手続をとった場合の欠陥や間隙を埋める趣旨で世上よく行われる整理の方法であるが、その目的を一にする以上前記諸法の趣旨を参酌すべきは当然であるし、元々保証や物上保証は債権者が債務者から完全な満足を得られない場合に備えることを目的とした手だてであることを考えると、特段の事情のない限り、被控訴人が債権額の五パーセントの配当を受けるに際して訴外会社に対して差し入れた書面においてなした「その余の債権利息等は放棄する」旨の意思表示は、訴外会社に対しては、それ以上の責任を追及しない趣旨であったと解するのが相当である。そうして右特段の事情を認めるに足る疏明はない。

そうすれば控訴人の主張は前提を異にするものであるから爾余の点を判断するまでもなく採用することができない。

以上のとおりであるから本件仮処分申請は被保全権利につき疏明がないから、右申請を容れた仮処分決定は失当としてこれを取り消し、右申請はこれを却下すべきである。

よって右と同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田國雄 裁判官 海老沢美廣 笹本淳子)

<以下省略>

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